【カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)とは】その重要性とマネジメント法

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」とは、和訳では「カスタマー」=「顧客」、「エクスぺリエンス」=「体験」という意味を持ち、直訳の「顧客体験」というような内容として定義されます。 商品やサービスを購入し利用する際の顧客体験を指し、近年では「カスタマーエクスペリエンス(CX)」はマーケティングを行う際に無視できない概念となっています。

カスタマーエクスペリエンスの成り立ち

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」=「顧客体験」という用語は、2000年近辺にアメリカのバーンド・H・シュミット氏らが提唱した概念であるとされています。 第二次大戦後から現在まで何十年と経ち、近年ではモノやサービスが必要以上に供給され、良い品質、良いサービスの提供は顧客にとって当然となりました。 その中で、複数の商品やサービスの中から、あるひとつに顧客が魅力を感じてそれを選択し、さらには何度もその商品やサービスを選択し続けてもらうためには「カスタマーエクスペリエンス(CX)」=「顧客体験」という概念こそが重要になる、というようなことを説いています。

カスタマーエクスペリエンスの定義

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」の直訳である「顧客体験」は、「顧客が商品やサービスの購入、使用にあたって体験するすべての経験」である、として定義されています。 「カスタマーエクスペリエンス(CX)」=「顧客体験」を顧客側の視点に軸を置いて定義し、提供者が顧客に与える商品・サービスではなく、顧客がどのような体験を求めるのか、という点に主眼を置いているという点で、「カスタマーエクスペリエンス」は現代にあったマーケティングの概念であるとして広く普及しました。 それまでの「黙っていてものが売れた時代」から、「ものではなく体験を価値として、それを求める時代」に変わってきている現在では、顧客がどのような体験を求めているのかを考えることは、企業の業績向上にとって非常に大きな意味を持っており、「カスタマーエクスペリエンス」は、すなわち「顧客にどのような気持ちになってもらうか」を定義する概念である、とも言い換えることが出来ます。

カスタマーエクスペリエンスの分類

前述のバーンド・H・シュミット氏は「カスタマーエクスペリエンス(CX)」=「顧客体験」として、以下の五つの価値があると分類しています。 1.Sence=感覚的経験価値 2.Feel=情緒的経験価値 3.Think=創造的経験価値 4.Act=行動的経験価値 5.Relate=準拠集団 これ以降は、「カスタマーエクスペリエンス」の五つの分類それぞれの詳細と、それを用いた事例をご紹介します。

カスタマーエクスペリエンスの分類(1):感覚的経験価値

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」、すなわち「顧客体験」のうちの一番目の分類とされる「感覚的経験価値」は、顧客が商品やサービスを利用する際に感じる「感覚」のすべてを指す、とされています。 その商品は、どのような手触りをしているのか、どのような形に見えるのか、そのサービスは音を発するのか、など、顧客が五感によって経験する価値を指しています。 これが「心地良い」と感じられるとき、カスタマーエクスペリエンスの一つである「感覚的経験価値」に基づいたマーケティングが成功している状態であると言えます。 また、カスタマーエクスペリエンスで扱われる「感覚的経験価値」は商品やサービスそのもの以外にも、購買行動にも当てはめることができて、商品売り場や陳列の見た目、店内に流れる音楽や騒がしさなども同様な解釈として扱うことが出来るはずです。

カスタマーエクスペリエンス「感覚的経験価値」に基づいたマーケティングの事例

例えば、iPhoneを扱うApple社は、家電量販店の中でも絨毯を敷いた特別なコーナーに商品を陳列しています。 来店した顧客は、一般的な商品とは違った、Appleならではの高級感を五感で感じながら商品を手に取り、購入を検討します。 カスタマーエクスペリエンスの「感覚的経験価値」を考慮したマーケティングの事例のひとつであると言えるでしょう。

カスタマーエクスペリエンスの分類(2):情緒的経験価値

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」のうちの二番目の分類とされる「情緒的経験価値」は、前述の「感覚的経験価値」に少し似ていますが、こちらはどちらかというと顧客の感情や気分に焦点を当てた、顧客体験の概念であると定義されます。 その商品やサービスを顧客が使う時、どのような気分になるか、また商品の購入時、サービスの提供にあたって顧客がどのような気持ちでそれを行うか、といったことを考慮することこそがカスタマーエクスペリエンスでの「情緒的経験価値」に基づいたマーケティングであるといえます。

カスタマーエクスペリエンス「情緒的経験価値」に基づいたマーケティングの事例

Apple社を例にとると、「Appleの商品の見た目が好き」という理由と「Appleの商品になんとなく思い入れがある」という理由では、その商品を使う動機が違います。 この「顧客の気分」に焦点を当てるのが「情緒的経験価値」によるマーケティングです。 これ以外にも、地方出身者が自分の出身地域で製造されている製品に特別な感情を持ってしまったり、「あなたにもこんな経験はありませんか?」というようなメッセージで行われる販売促進の手法も、カスタマーエクスペリエンスの中でも「情緒的経験価値」に関連するマーケティングの事例の一つであるとされています。

カスタマーエクスペリエンスの分類(3):創造的経験価値

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」のうちの三番目の分類とされる「創造的経験価値」は、顧客の「創造性」に訴えかけるものである、と定義されています。 「創造性」とは、すなわち知性に直結する顧客体験のひとつで、その商品やサービスが持つ効能や、歴史などを知性に対して訴えかける方法につながります。

カスタマーエクスペリエンス「創造的経験価値」に基づいたマーケティングの事例

近年流行している、糖質やプリン体をカットした新しい発泡酒を販売するにあたって、企業は糖質やプリン体が健康に対してどのような影響を与えるかを解説します。 ビールを日常的に飲む購買層の中でも、健康的な生活に興味がある人たちの知性に働きかけるようにこれらの情報を訴えかけ、それにより購入の促進を図っています。 これはカスタマーエクスペリエンスの中の「創造的経験価値」に基づいたマーケティングの事例であると言えます。 また企業の、創業当時から現在までの商品開発の歴史にスポットを当て、それを顧客に伝えることで、商品の成り立ちに対する好奇心を揺さぶり、マーケティングに成功している事例も多数あります。

カスタマーエクスペリエンスの分類(4):行動的経験価値

「カスタマーエクスペリエンス」のうちの四番目の分類とされる「行動的経験価値」は、その商品やサービスによって、顧客に行動を促すもので、「このようなライフスタイルの変化が望める」という販売促進のメッセージはカスタマーエクスペリエンスの中の「行動的経験価値」によるマーケティングの代表的なものであると言えます。 これは、「できなかったことができるようになる」という直接的な行動の変化はもちろんのこと、その商品を持ち、サービスを受けることで生まれる新しい自分と、それによる満足感や優越感のことも含まれる顧客体験であると定義されています。

カスタマーエクスペリエンス「行動的経験価値」に基づいたマーケティングの事例

近年流行しつつある、定額制の音楽ストリーミングサービスは、これまでの「CDを購入する」「音源をダウンロードする」という音楽の聴き方を変えました。 「毎月一定額を払い、あらかじめ用意されている膨大な数の曲の中から選択して聴く」という新しいライフスタイルを提案するものこそが、その「定額制の音楽ストリーミングサービス」であり、サービスに顧客の行動を結びつけて購買を促す手法がカスタマーエクスペリエンスの「行動的経験価値」に基づくマーケティングです。 この「定額制の音楽ストリーミングサービス」の訴求方法は「行動的経験価値」を利用した、マーケティングの事例のひとつであると言えるでしょう。

カスタマーエクスペリエンスの分類(5):準拠集団

カスタマーエクスペリエンスのうちの五番目の分類とされる「準拠集団」は、人間のもつ帰属意識に訴えかける手法である、と定義されます。 具体的には、社会の一員である自分、組織の一員である自分、また家族や友人グループの一員である自分、というものを顧客に意識させ、その点に訴えかけるように商品やサービスの購入を提案します。

カスタマーエクスペリエンス「準拠集団」に基づいたマーケティングの事例

ルイ・ヴィトンやエルメスなどのハイブランド商品は、商品自体の見た目や手触り(感覚的経験価値)などに加えて、それらを所有する喜びにも訴えかけ、購入を促します。 それはすなわち「街中でハイブランド品を持って歩く自分」の姿を想像させることであり、「ハイブランド品所持グループ」の一員になれる(集団に帰属できる)、という喜びを与えることでもあります。

カスタマーエクスペリエンスはデータに出来ない情報

通常マーケティングを行うにあたって、「どのような人が自社の顧客になるか」「何回自社のサービスを利用してくれているか」など、顧客の情報をデータとして管理するやり方が採られます。 具体的には、顧客の性別や年齢、家族構成、どのようなタイミングで商品を購入したか、何回商品を購入したか、などがそれにあたります。 しかし、このマーケティング情報からは顧客の表面的な情報しか拾い上げることができず、それによって行われる購買促進の運動は、どうしても商品提供者側からの視点に基づいた、提供者本位のマーケティングになってしまいます。 「カスタマーエクスペリエンス(CX)」は、この方式を抜本的に変える概念で、それはすなわち「データに出来ない顧客の情報」を意味します。 前述のカスタマーエクスペリエンスの五つの分類=「感覚的経験価値」「情緒的経験価値」「創造的経験価値」「行動的経験価値」「準拠集団」と事例のそれぞれは、どれも顧客の内面に迫るものであり、それを理解することは、すなわち「顧客が何を欲しているか」を理解していることにもつながります。 これが「カスタマーエクスペリエンス(CX)」を利用した「顧客本位」のマーケティングであり、これはカスタマーエクスペリエンスの本質でもあるとされています。

カスタマーエクスペリエンスに関わる用語「ペルソナ」とは

「カスタマーエクスペリエンス(CX)」を考える際に無視できないのが「どのような人をターゲット(カスタマー)とするか?」という点です。 企業は、自社の商品やサービスを提供する顧客として、彼らがどんな年齢、性別で、どんな職業を持っていて、どのようなライフスタイルを送っているか、を定義します。 この「どのような人をターゲットとするか?」を考える際に、自社の顧客(カスタマー)として設定する架空のターゲットは「ペルソナ」と呼ばれています。 「ペルソナ」は、ある特定の人物を想定するもので、その人物がどのようなバックグラウンドを持っているか、詳細に設定するほどに、企業が目指す方向が明らかになります。 具体的には、前述の年齢や性別、職業などに加え、居住地、家族構成、趣味、年収やお金の使い方など、その顧客を形作るさまざまなことを定義します。 また、その人物が「どのような趣向を持つか」という点を明らかにすることも大切で、高級品を好むのか、安く手に入ってそれなりに使えるものを求めるのか、といった点も明らかにする必要があります。 「ペルソナ」は多くのマーケティング手法を説く書籍でも度々登場する概念で、それは「カスタマーエクスペリエンス(CX)」と掛け合わせることで効果を発揮します。 自社が求める顧客(カスタマー)のバックグランドを明らかにし、それにあてはまる人々が、自社の商品やサービスを利用する際にどのような体験をするかを考えることで、想定されるカスタマーエクスペリエンスがより自社に合った、購買促進に際して現実的で効果的なものとなります。

カスタマーエクスペリエンスに基づくマネージメント手法

一般的に「カスタマーエクスペリエンス(CX)」に基づくマーケティングは、顧客からのヒアリングによって始まると定義されます。 自社の商品やサービスを購入・利用するにあたって顧客が持つ感情を明らかにし、それをもとに、前述の事例にあったような手法を用いて、商品そのものやサービス、売り場や従業員の対応、販売訴求など、さまざまなことを改善します。 また、「カスタマーエクスペリエンス(CX)」=「顧客体験」は顧客に新たな価値を提供する概念でもあり、それが口コミを生み、リピーターを生みます。 新規の顧客を惹きつけるためだけに「カスタマーエクスペリエンス」は存在するのではなく、既存顧客に新しい魅力と、「この商品やサービスをこれからも使い続けたい」と思わせる効果も生み出します。

まとめ

「カスタマーエクスペリエンス」について、上記の通りその内容と事例をまとめてみました。 少子化、高齢化が進んだ現代の日本において、マーケティングにおける「カスタマーエクスペリエンス」の概念は欠かせないもので、自社の商品やサービスを通して、優れた顧客体験を提供できるよう、企業は日々努力を重ねています。 この「カスタマーエクスペリエンス」という概念によって、また新たなサービスが世の中に登場することを願って、今後も市場の動向に注目していきたいですね。