ノスタルジーの意味と由来

まず最初に、ノスタルジーといは本来どういう意味で由来、語源があるのででしょうか。

語義的なノスタルジーの意味とは

言葉の意味だけで言えば、ノスタルジーとは2つあります。 ・異国の地から故郷、故国を懐かしむこと。 ・自分の人生における過ぎ去った時代を懐かしむこと。あるいは経験していないほど古い時代の文化や風俗を懐かしむこと。 特に後者の意味としては懐古趣味、懐古主義なども使われます。この記事では主に後者の意味について解説していきます。 どちらの意味にしても示すところの本質は、現在の時代から時間的に遡った過去や、空間的に離れた場所など、「2度と行けないところ」を想像し、その特定の時間や空間に対して、それを懐かしんだり、実際以上に高く評価したりすること」です。 「実際以上に」というのがノスタルジーの意味するところのポイントで、その時代、その場所のマイナス部分は思い浮かべず、プラス部分の良かったことだけをことさら強調して、ある意味自分に都合はよいように、イメージとして再構成されます。それが本来の意味から派生して、「現実逃避」につながるとされ、ノスタルジーは今生きる上での生産的な考えや趣味ではないとして、中には否定的な意味合いで論評する人もいます。

精神医学的なノスタルジーの意味とは

精神医学的な意味と語源としては、そのような過去や行けない場所を懐かしむ行為や思考を持つ背景に、重い抑うつ感情があるとして、重度のうつ病のことを指す場合もあります。 ただしその場合のノスタルジーは、ある意味、現在おかれたストレスフルな環境を直視しないで、自分がほっとする環境を思い出し、それによって抑うつ的感情を和らげる、自衛本能的な感情の動きなので、否定されるべきものではありません。むしろ、過度の緊張や慢性的な心労や疲労ををそれで解消できるのであれば、ノスタルジーは十分に精神医学的な治療の一種であり意味があると言えます。 うつ病とまではいかなくても、ほとんどの現代人はストレスに囲まれて暮らしていますから、そのようなストレスを忘れる行為は必要なものです。そのようなノスタルジーを感じさせる行為や手段、あるいはそのためにグッズを現代では癒し、癒しグッズ、同じ意味で、ヒーリング、ヒーリンググッズと呼んでいます。 たとえばゲームの世界でいえば、小学生が夏休みに田舎へ行って、数々の宝物を探す「僕の夏休み」は大ヒットをしましたが、これなど癒しを提供するノスタルジー商品という意味では典型的なものでしょう。

芸術面での代表的なノスタルジーがルネッサンス

あるいはこのノスタルジーが芸術の分野で大きな力を示すこともあります。たとえばそれは14世紀から16世紀にヨーロッパで一大芸術運動となったルネッサンスです。 ルネッサンスの語源は「再生」「復活」を意味するフランス語ですが、主な動きとしてはギリシャ、ローマの合理的で、現実的な古代文化を復興しようとすることです。それは一方では「人間性解放運動」と評価されるように、抑圧され、形式化された人間性とそれに由来する芸術表現を否定し、古代文化のおおらかで写実的で人間肯定的な文化を復興させようという意味のものでした。 このように書くと、非常に理論的に構築された文化のように思えますが、しかしその根幹にあったのは、ギリシャ、ローマ時代への憧れであり、いわばノスタルジーです。そのノスタルジーから由来して、かつそれが根本の原動力となってルネッサンスは勃興した、言えるのです。その点で、人間の持つノスタルジーという感情は芸術運動を起こすほど大きな意味があると言えるでしょう。

ノスタルジーの意味の歴史的な変遷

では分類的なノスタルジーの意味を分かっていただたところで、今度は時系列的にノスタルジーという言葉の語源と由来が何で、どういう意味を持って生まれ、その意味がどう変遷していったのかという点を見てみましょう。

ノスタルジーの概念が誕生したのは17世紀末

ノスタルジーという言葉の由来は1688年にスイスの医学生であるヨハネス・ホウファーが作った造語です。語源はギリシャ語の帰郷という意味の「nostos」と、心の痛みという意味の「algosを合成したのものです。ですから本来の語源と由来から言えばノスタルジーは、時代的な過去を懐かしむ意味ではなく、「故郷へ戻りたいという願いがかなわないため、心が痛む」という意味です。 そのヨハネス・ホウファーは医科大学卒業に精神科医となり、自分の作った概念である「ノスタルジー」という心理状態を「心の病」の意味だとして、数々の症例とその診断結果を発表しました。その結果、17世紀末から19世紀にかけて、多くの医学者がノスタルジーを研究対象としました。

18世紀にはノスタルジーは精神医学の研究範疇

とくに18世紀から19世紀には、ヨーロッパでは絶え間ない戦争が起こったたため、前線の兵士達に語源通りの意味である「故郷に帰りたい思い」に由来する「戦争を忌避し、戦意を喪失させる」心理を蔓延させる「重大な病気」がノスタルジーだという認識になりました。その結果、ノスタルジーの意味と発症原因、あるいは治療方法などが医学的な課題としてしきりに研究されました。

20世紀にはノスタルジーは単なる懐古主義の意味に

しかしその絶え間ない戦争状態がひと段落し、戦士が前線から次々に帰郷し始めた19世紀末には、戦意を喪失させるネガティブな感情であるノスタルジーを研究する意味はなくなり、精神医学のカテゴリーとしての意味もなくなっていきました。 しかし一方で「深刻な病気」という意味でのノスタルジーは使われなくなった代わりに、今使っている意味と非常に近い語源通りの「離れた場所を懐かしむ」意味に加えて「過ぎ去った時代を懐かしむ」意味も合わせて、ノスタルジーが、一般用語とし日常会話に使われるようになりました。

ノスタルジーの精神医学的な意味はメランコリーと置き換わった

しかしだからと言って「現在のストレスフルな状態から目をそらし、その無意識的な自己治療として過去や離れたところに思いを馳せる」という意味のノスタルジーに価値がなくなったわけではありません。現代の精神医学ではそのノスタルジーを、「過去や離れた場所に思いを馳せる」時の憂うつな気分状態として、特に「メランコリー」、すなわち「抑うつ状態」と定義し、重視し、医学研究上、臨床上大きな意味があるという認識になりまいsた。 現代の精神医学の領域では、メランコリーな心理状態を持ったうつ病を、うつ病の中でも特に重症のもの指す意味合いが強くなっています。

ノスタルジーの懐古趣味的な意味はレトロ趣味とも言い換えられている

またそのような精神病的な意味合いのノスタルジー、すなわち近似的な意味でのメランコリーではなく、もっと日常的な癒し行動や癒しの心理状態という意味でのノスタルジーは、現代ではレトロとも言い換えられています。 たとえば、LPレコード、ブリキ製の玩具、ヴィンテージのクラッシクカーなどを収集したり、鉄道の廃線跡や廃墟となった建物を探索するような行為は特にノスタルジーと同じ意味で「レトロ趣味」と言われています。ですからノスタルジーという言葉は、以前ほど用いられることはなくなりましたが、同じ意味でメランコリーやレトロと言った言葉が、代わりに用いられているのです。

ノスタルジーに浸る人の特徴とは

ではこのようなメランコリーであったり、レトロであったりする「ノスタルジー」に浸る人には何か特徴があるのでしょうか。

ノスタルジーに浸る人は何か意味があってそうなるのか?

特に、ノスタルジーを「自分の過去への感傷的な思慕」の意味に限定した場合について、ある研究チームがそのノスタルジーを感じている状態とはその人にとってどうい意味があるのか、を分析しました。方法は、多くの被験者に本人のノスタルジーの経験を詳細に文章化してもらい、それを言語分析の専門家が分析をするというものです。 その分析の結果、分かったのは、ノスタルジーの対象となる思い出は、その人の人生の分岐点となるようなできごとやや、個人的に大きな意味を持つできごとに集中しているということです。そしてなおかつ、そこには必ず身近な人が関与している傾向が強いということもわかりました。 たとえばそれは、クラブの全員が一丸となって体育大会で優勝した経験や、家族や友人との旅行、結婚、友人たちとのちょっとした冒険や秘密の行為などで、基本的にすべて「幸せな思い出」という意味付けをされて、思い出されるものばかりでした。つまり、失敗したり、誰かに叱責されたり、何をを失ったりしたネガティブで不幸な過去はノスタルジーに浸る対象にはなっていなかったのです。 そのノスタルジーを感じるのは、昔よく聞いた歌がラジオから流れてきたり、TVの過去を振り返る番組で当時のニュースを見たり、あるいは旧友とばったり出会ったりすることが引き金となる場合が多いです。またその思い出す内容は、成人してからの出来事ではなく、人格が形成される12歳から22歳にかけてのできごとがほとんどです。その理由は、自分はこういう人間だという「セルフイメージ」が形成されるその時期が、本人にとっての精神的なルーツなので、自己肯定のためにはそのシーンを思い出す必要があるからです。

ノスタルジーに浸る人の特徴は

しかしこのノスタルジーに浸りやすい人と、浸りにくい人がいるのも事実です。仕事がつらくなると高校の卒業アルバムを見返して自分に癒しを与える人もいる一方で、そのようなアルバムさえどこに行ったか分からない人もいます。もちろん、そのどちらがよいということはありません。 ただし、そのノスタルジーの対象が自分自身の体験した思い出そのものではなく、そのような思い出とどこかで関連するLPレコードや古陶磁器などのアンティークグッズの収集や、人間の作り出した過去の歴史や文化の研究の方向に興味が行く人は、一般的に言って穏やかで博識、冷静沈着で正確な人が多いとされています。特にアンティークグッスを収集している人は、審美眼が備わっており、その結果、見た目が大人びて来て、実年齢よりも上の年齢に見られることも少なくないようです。

若者の間でノスタルジーが流行する意味は

かつてはこのようなノスタルジーを背景にしたレトロ趣味は、中高年以上の人の趣味でしたが、最近は10代、20代の若者の間でもそのレトロ趣味をも持つ人が急増しています。古着を買って着るのがおしゃれ、という傾向もその1つですし、家の中をアンティーク家具で揃えたり、古民家を改修して住んだり、CDではなくLPレコードを聴いたり、というような行為もその一環です。 このような現象の意味は、基本的には文化は新しい、奇異なものが流行するとその反動で古いものが注目される時代が巡ってくる振り子のようなものですから、その現れという見方もできます。しかし同時に、それだけ現代の若者はストレスフルな日常で疲弊していて、ノスタルジーの中に浸ることで、その疲弊状態から治癒することを自分で選択しているという意味も見て取れます。

現代においてノスタルジーが存在する意味とは

そのようなノスタルジーが現代でも存在していく意味とは何でしょうか。

ノスタルジーは生きる力を与える

ノスタルジーの1番大きな意味は、ストレスフルな日常から一時逃避させてくれ、その逃避している間に心身ともに疲弊した状態から治癒する時間が与えられることでしょう。そのノスタルジーにひと時浸ったおかけで、ある人は明日からまた始まる厳しい日常に取り組む勇気を取り戻すことができますし、またある人は、先のことを考える余裕がなく目の前のことだけで精いっぱいだったものが、過去を振り返る時間を持ったことで逆に未来を考える余裕を取り戻せたりするのです。 最近の学術誌「Personality and Social Psychology Bulletin」や「Journal of Personality and Social Psychology」に掲載された研究論文では、ノスタルジーは自己肯定感を持たせ、将来を楽観視させ、人生の意味を発見させ、孤独に立ち向かう勇気を与える、と再評価されています。その中では「ノスタルジーは精神的に重要なリソースである。なぜならノスタルジーに浸ることで自分には価値があると自信を持てるような、重要な証拠を思い出せるからだ」と述べられています。 このようにノスタルジーに浸ることは、ある意味、生きる力を与えてくれるほど、人間にとってポジティブな要素なのです。

ノスタルジーに浸る危険性とは

ただし、ノスタルジーに浸ることは良い面ばかりがあるわけではありません。 ノスタルジーに浸ることのデメリットもいくつかあるのです。たとえば、ノスタルジーは現在から目を反らさせてしまい、それに安住してしまうと、次の行動に移るパワーを失ってしまいます。さらには、厳しい試練も含めた将来を正面から受け止めそれらを自分にとって前向きにとらえることから逃避させてしまうことも少なくないでしょう。 高齢になってからそのような状態になっても、失うことはあまりありませんが、若年のうちにそのようなノスタルジーに浸ってしまうと、自分の未来を前向きに考えることができなくなってしまいます。それは社会的にも人格形成の点でも、将来への準備を停滞させるでしょう。 さらにノスタルジーの問題は、過去のことの再体験にばかり時間を使って、新しい体験をし、新しい思い出を作る時間を喪失させてしまうこと点としても挙げられます。それは新しいにチャレンジする時間を奪うことにもなりますから、大げさに言えば人類全体がノスタルジーに浸ってしまえば、文明も科学も進化しなくなってしまう、ということになります。 ですからノスタルジーを適度に持つことは自分に挑戦する力をチャージしてくれますが、浸り過ぎてしてしまうと、人間的にも社会的にも進歩が停止してしまうわけです。ノスタルジーに浸ったり、ノスタルジックな趣味を持つ場合には、そのことに十分留意する必要があるでしょう。

まとめ

いかがですか。 ノスタルジーの分野別、あるいは時系列的な意味についてお分かりいただけたでしょうか。またノスタルジーは生きる力を与えてくれますが、浸り過ぎると進歩を停滞させてしまう、という諸刃の剣的な要素を持っていることもご理解いただけたでしょうか。それが分かったうえであれば、ノスタルジーに浸るのは悪いことではありませんから、自分の気のすむままに浸るだけ浸りましょう。